大菅小百合in五輪、渾身のレポート(1)
Text by 米田昌浩(PRISM)

 ソルトレークシティ・オリンピック、スピードスケート女子500m初日。自分の目を疑った。大菅の滑りは客席のかなり高い位置から見ていても、明らかに堅いとわかる滑りだった。一体何が彼女にあったのか?
 この日のタイムは自己ベストには及ばないものの、38秒を切る37秒82と、タイムだけ見ると決して悪くはない。しかし、多くの選手が軒並み37秒台が出ており、自己ベストを更新している中、大菅にとっていいタイムとは言えない。明らかに体が思うように動いていない。持ち前の蹴り足の力強さが感じられない。37秒台後半とはいえ、とても“速い”という印象を持てなかった。頭の中にしきりに浮かぶ言葉は「大菅はどこかおかしい…」というだけであった。
 オリンピック前に私が母親のはるみさんに話を聞いた時のことだった。
「あの子はああ見えても、本番では絶対に緊張するから、試合前に会えれば、私が抱きしめてあの子の緊張をすべて吸い取ってあげた…」。
そんなことを言っていたのを思い出した。やはり、緊張して堅くなっているのだろうか?
 大菅のいい所は、大事な場面になればなるほど、自分の持っている以上の力を発揮できるその勝負度胸、勝負強さであると私は思っている。しかも、人一倍負けん気が強くて、また自分にプレッシャーをかけることで、自分を追い込むことによって、逆に力を発揮するタイプななずだった。しかし、やはり初めてのオリンピック、夢にまで見たオリンピック…、その空気にのまれてしまったのだろうか?
 もし仮にそうだとしたら、理由として考えられるのは“オリンピックに出る”ことが目標だったのが、ほんの短期間の間に“オリンピックで勝つ”に変ってしまい、自分を追い込む間もなく、いつもの自分の精神状態を見失っていたのではないだろうか?
 その滑りは決して技術的なものではなく、精神的な影響が大きいことは、誰の目にもわかったに違いない。
 結果、初日は8位。1位との差は0.52秒。3位との差でも0.20秒の差がある。辛うじて銅メダルはまだ射程圏内と言えなくもないが、彼女が勝ちたいと口に出していた王者ルメイドーンとの0.52秒の差は、どう考えても離れすぎている。それどころか、翌日も同じように堅さを残したまま滑れば、タイムを落としかねないような状況だ。
 その夜、私は奇跡を祈った。ただ、ただ奇跡を祈って眠りについた。

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